James Dyson Award 2023 法政大学と日本大学チームの作品が国内最優秀賞を受賞|Dyson ニュース|ダイソン

James Dyson Award 2023 法政大学と日本大学チームの作品が国内最優秀賞を受賞

2023.10.04

次世代のエンジニアやデザイナー支援・育成を目的に、ジェームズ ダイソン財団が主催する国際エンジニアリングアワード、James Dyson Award (以下、JDA) 2023の国内最優秀賞作品を含む上位3作品を発表しました。初開催の2005年から一貫して「問題を解決するアイデア」がテーマである本アワードに、今年は世界30か国より1,900以上の応募がありました。今年の国内最優秀賞は法政大学 田中 郁也氏、日本大学 成嶋 セルジオ 正章氏による、視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡るための歩行者用信号認識プロダクト「AISIG」に決定しました。

この作品は、視覚障害のある人は音響信号機や周囲の環境音などを頼りに横断歩道を渡っているものの、音響信号機の設置数は全国で20万基ある信号機のうち約2万基(令和4年3月末現在・出典:警視庁)と、非常に少ない現状に問題意識をもったことをきっかけに開発されました。視覚障害者にとって音響信号機のない交差点を渡ることは、いつ車が通るか分からないため命がけの行為です。そして交差点が渡れないために、「行きたいところに行けない」という悩みを抱えている視覚障害者が多くいます。

それを解決するアイデアとして生まれたのが、「AISIG」です。「AISIG」は、AIによる画像認識でリアルタイムに歩行者用信号機の色を判断し、利用者に伝えることで、視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡れるよう手助けをするプロダクトです。青の時は短い振動、赤の時は長い振動といった振動パターンの違いで、判定結果を利用者に伝達します。またAISIGは白杖に装着するため、利用者は普段と同じ動作で使用ができます。

このプロジェクトがスタートした背景について、田中氏は次のように述べています。「きっかけは、チームメンバーである成嶋 セルジオ 正章が先天性の弱視という視覚障害をもっており、彼自身や彼の知り合いも、横断歩道を横断するのに苦労をしていたことでした。また、視覚障害者が横断歩道で事故にあうケースは後を絶たず、この問題は絶対に解決しなければならないと考えました。」

また今回の受賞を受け、田中氏は「受賞の知らせを聞いたときは、驚きと嬉しい気持ちでいっぱいでした。AISIGの実用化に向けて、多くの人にこのプロジェクトを知ってもらうことを目標にしています。今回の受賞が、日本だけではなく世界に人々にも認知されるきっかけになればと思っています。今回の結果は皆さまからの期待と受け取り、AISIGの実用化に向けて今後も開発に取り組んでいきます。」とコメントしています。

また、国内準優秀賞は、下記の2作品に贈られます。

  • 洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機: (東北大学)
  • 内蔵された動力でロープ上を昇降する自走式昇降機によって、洋上風力発電のブレード(翼部)点検作業を行う

  • carari: (京都工芸繊維大学大学院)
  • 自閉症スペクトラム障害の人に向けた集中のコントロールをサポートするツール
国内最優秀賞作品 - AISIG

AISIGは視覚障害のある人が安心して横断歩道を渡るための歩行者用信号認識プロダクトです。AIによる画像認識を用いて歩行者用信号機の色を判定し、青の時は短い振動、赤の時は長い振動といった振動パターンの違いで、判定結果をユーザーに伝達します。このデバイスによって視覚障害者の生活圏の拡大を目指しています。

問題
音響信号機のない交差点を渡るのは、視覚障害者にとってはいつ車が通るか分からないため、命がけの行為です。そして音響信号機の設置数は、全国で20万基ある信号機のうち約2万基(令和4年3月末現在・出典:警視庁)と非常に少ないのが現状です。交差点が渡れないために、「行きたいところに行けない」という悩みを抱えている視覚障害者が多くいます。

解決策
画像認識技術で信号の赤と青を判定して視覚障害者に伝達します。個人が持ち運べる携帯型デバイスで信号の色を判定できれば、音響信号機のない交差点でも安心して渡れるようになると考えました。AIによる画像認識で信号の色を判定し、デバイスが振動することでユーザーに赤か青かを知らせます。約500枚の信号機の画像を機械学習させたAIによる判定に、OpenCVの画像処理をかけることで画像認識の精度を高めています。

国内準優秀賞作品 - 洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機

内蔵された動力でロープ上を昇降する自走式昇降機によって、洋上風力発電のブレード(翼部)点検作業を行います。 従来の洋上風力発電の点検作業は高所作業のリスクが伴っていましたが、本技術でこの課題を解決することができます。ブレードにロープを張りその上をこの昇降機で往復させ、カメラを使用してブレード上の汚れや破損を点検します。限られた空間でも簡便に点検システムを敷設することができ、点検作業に伴うコストや電力損失を削減し、安定的な電力供給を維持することが可能になります。

問題
洋上風力発電の運用及び保守点検にかかる費用は、発電原価の約2割を占めています。その原因の一つは、人力による点検作業の場合、高所での作業となる上、ブレード上のクラックなどの異常に気づくことのできる判断力が必須であることが挙げられます。さらに、洋上の風車へのアクセスの困難さや、点検中は1基あたり最大80時間も運転を停止しなければならないことも費用がかかる原因です。このように、洋上風力のメンテナンスは発電事業者の大きな負担となっています。

解決策
今後ますます開発が進むとされる洋上風力発電で安定的に電力を供給するためには、コストを抑えた効率の良い点検システムの構築が必要だと考えました。そこで、我々が持つロープ上を自走する昇降機の技術を用いた点検システムについて開発・検証をスタートさせました。私たちの考える最終的な状態は、ロープ自走式昇降機を常に風力発電のブレードに取り付け、運用を止めずに自動で点検をすることです。

国内準優秀賞作品 - carari

自閉症スペクトラム障害の人に向けた集中のコントロールをサポートするツールです。自閉症スペクトラム障害の特性である視覚的優位を生かし、ブロックが積み上がった高さで回数・時間を可視化し、進捗把握を促します。また、ビー玉を転がし止まった場所に従ってあらかじめ決めた行動をとることで、意識を外に向け十分な時間休憩をとることを手助けします。これにより集中力をコントロールすることをサポートし、過集中を防ぐことが可能です。

問題
自閉症スペクトラム障害の特性である過集中に着目しました。過集中時には高い集中力を発揮する反面、他のことに意識が向けられないため周りの呼びかけに気が付かない、時間感覚がなくなり生活リズムが狂ってしまうなど、日常生活に支障をきたすことがあります。また疲労を感じづらく没頭してしまうため、反動で極度の脱力状態になってしまうことがあり、健康面でも大きな負荷がかかっています。

解決策
本作品は6つのアクリルブロック、トレイ、ビー玉で構成されています。アクリルブロックの内部は階段状になっており、ブロックを順番に重ねると内部の階段が繋がり、螺旋階段のように上から下までビー玉が転がり落ちるようになっています。休憩目安時間になったらアクリルブロックを1段積み、ビー玉を転がして止まった場所に応じた休憩行動をとります。

これを繰り返すことで、一定時間ごとに休憩を促し、過集中を防止します。また、アクリルブロックが積み上がることによって、自閉症スペクトラム障害の人が実感しづらい時間や作業量の蓄積、進捗状況を高さの推移で視覚的に体感し、達成感や満足感に繋げます。